お寺の掲示板(令和7年2月)
- 木原祐健
- Feb 1
- 3 min read
Updated: Feb 2
草加光明寺の掲示板に毎月掲出している言葉をご紹介いたします。取り上げる言葉とその解説は、『お寺の掲示板』(江田智昭著・新潮社)等を参考にさせていただいております。

「あなたに影があるなら それは光が当たっている証拠よ。」
今月の言葉は世界的なスーパースター、レディー・ガガの発言を訳したものです。
現在歌手として、俳優として、世界的な名声を得ている彼女も、学校ではひどいいじめを受け、下積みの時代にも数多くの苦労を重ねたそうです。『お寺の掲示板』の江田さんは、
そのような状況の中で、自身の暗い影の部分をじっくり見つめることがあったのかもしれません。
と、心を寄せます。
江田さんはユング心理学の「影(シャドー)」という概念を「自分では認めることができない側面を表すもの」と言い換え、
どんな人間にも必ず影の部分があります。その影の部分を決して見たくはありませんが、ユング心理学では、影と向き合い、影とのつながりを大切にしながら、心の健康や全体性を回復させることに重点が置かれています。
童話作家・アンデルセンの『影』という小説、小説家・村上春樹の『影』への解説を通じ、私たちが持つ影との向き合い方をこのように一度概括します。
自分自身の影と向き合うことは、非常につらいことです。しかし、影と向き合わずに放っておくと、それは勝手に一人歩きを始め、自分自身を大きく脅かすものになりかねません。
そのうえで、江田さんは浄土真宗の宗祖、親鸞聖人を「影を生涯見つめ続けた宗教家だった」ととらえています。
自分自身の影を冷徹なまでに見つめており、「自分の心は、その内側には愚かさを持ちつつ、外見では賢く振る舞っている」(『愚禿鈔(ぐとくしょう)』)と述べています。そして、親鸞は、そのような私をも阿弥陀仏の光は照らしていると説きます。
無碍(むげ)の光明は無明(むみょう)の闇を破する恵日(えにち)なり
これは親鸞の著書『教行信証』に登場する言葉です。「無碍の光明」とは、阿弥陀仏の光であり、決して影を作り出さない光です。親鸞は影ではなく、「闇」という言葉を用いていますが、その仏の光は煩悩の「闇」(無明)を破るのだとおっしゃっています。
江田さんはそのうえで、以前このブログでもご紹介した「のぞみはありませんが ひかりはあります (新幹線の駅員さん)」という掲示板の言葉をご紹介します。
これは、今回の「影」の概念でも出てくるユング心理学の大家である河合隼雄氏の著作に出てくる言葉です。
これは、「私たちが希望を失っても、常に仏さまの光明は照らしている」と解釈できます。以前、NHKの「ブラタモリ」の中で、タモリさんが、自身が一番お気に入りのお寺の掲示板の言葉として紹介していました。
そして江田さんは、影との向き合い方について、仏教の教えをもとに示しつつ、コラムを閉じていきます。
この世界の中には影もありますが、光もあります。仏さまの光(仏教の教え)を通して自分自身の影(闇)をごまかさずに見つめる姿勢を、終生大切にしたいものです。
「無碍(むげ)の光明は無明(むみょう)の闇を破する恵日(えにち)なり」
『教行信証』総序のお言葉が、いっそう深く染みこむようです。
引用部、『「お寺の掲示板」の深〜いお言葉』(江田智昭/ダイヤモンドオンライン 2024年11月5日更新)より
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