草加光明寺の掲示板に毎月掲出している言葉をご紹介いたします。取り上げる言葉とその解説は、『お寺の掲示板』(江田智昭著・新潮社)等を参考にさせていただいております。
「のぞみはありませんが ひかりはあります」(新幹線の駅員さん)
この言葉は心理学者の故・河合隼雄さんの逸話に基づくもので、河合さんの名言集にも載っているそうです。
『お寺の掲示板』の江田さんは、この少し不思議な言葉を以下のように解説します。
新幹線の駅員さんに、「のぞみはもうありません」といわれて絶句した河合さんは、その後に「ひかりはあります」といわれ、なんと素晴らしい言葉だ!と感激されたそうです。
駅員さんは「のぞみ(号)は終わり、ひかり(号)ならまだあります」と事実を述べただけなのですが、こうしたなにげない言葉に、河合さんは感銘を受けたそうです。
なぜか。患者さんから自殺をほのめかすような切羽詰まった電話を受けていたから、らしいのです。学会で出張していた河合さんは、自分が駆け付けたからといって何ができるのかと思いながらも、とにかく夜遅い時間の新幹線の切符売り場に来た。そこで耳にした駅員さんの「のぞみはなくても、ひかりがある」という言葉に希望を見出したのでしょう。
お寺の掲示板の江田さんは、ここから私たちに仏教の教えを伝えてくださいます。
仏教的に解釈すると、わたしたちが希望(のぞみ)を失っても、仏さまの「ひかり」はわたしたちを照らしています、と受け取れます。
仏さまのさまざまな智慧や慈悲のはたらきは「ひかり」と表現されます。それに対して、わたしたちはみな無明(むみょう)とよばれる大きな煩悩(ぼんのう)の闇を抱えています。普段はなかなか仏さまの光の存在に気づきませんが、煩悩の闇を照らす仏さまの智慧や慈悲の光は存在するのです。
「正信偈」の、「煩悩障眼雖不見 大悲無倦常照我」(煩悩によってわたしたちは仏さまの慈悲のひかりを見ることはできないけれども、常にひかりは私たちを照らしている)という内容をより深く味あわせていただくこととなりました。
引用部、『お寺の掲示板』(江田智昭/講談社)p57-p58より
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