草加光明寺の掲示板に毎月掲出している言葉をご紹介いたします。取り上げる言葉とその解説は、『お寺の掲示板』(江田智昭著・新潮社)等を参考にさせていただいております。
「悲しみを通さないと みえてこない世界がある」
この言葉は、2023年に行われた「輝け!お寺の掲示板大賞」にて、「まいてら賞」に選出された作品です。
安心の寺院や僧侶を紹介するホームページ「まいてら」編集部からの講評はこちら。
この言葉は東井義雄氏の言葉です。深い悲しみを経験することは、他者の苦しみ、痛み、そして悲しみに対する想像力を養います。仏教の「慈悲」における「悲」は、深いあわれみの心や苦しみを取り除くことを意味します。悲惨な戦争をはじめ、この世界は大小の争いが絶えません。争いによって深く傷ついた人々のもとへ飛んで行き、いたわることはできなくても、せめて心を向け、小さくても何らかの行動をする。悲しみから生まれる共感こそが自他をつなぎ、激動する世界に安心をもたらす希望の光になるのかもしれません。
『お寺の掲示板』の江田さんは、講評を受けてあらためて掲示板の言葉を読み解いていきます。まず、私たちはいつも同じように世界が見えているわけではないこと、心の状況に応じて世界は変わって見えることを述べます。
お釈迦様が遺された言葉をもとにする初期の経典、『法句経』(『ダンマパダ』)の冒頭に登場する「ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される」という言葉を引用し、
このように心によって目の前のものごと(世界)がつくり出されるため、例えば強い悲しみに心が支配されている時は、その悲しみが自身の見方に大きな影響を与えるのです。
と、私たちの心が自分の物の見方に影響を与えることを示します。
江田さんはNHKの番組で放映された宮崎駿監督の映画制作のドキュメントを例に出しながら、番組には宮崎監督が新しい作品を制作していく過程と、無二の盟友である高畑勲監督を亡くした悲しみ・喪失感を埋めていく過程が見事に描かれていた、と感想を述べ、かけがえのない友人を失った宮崎監督が深い悲しみと喪失の中で見えてきた世界を『君たちはどう生きるか』という作品にぶつけたと見ていきます。
また、
強い悲しみを通して描かれた作品が、国境を越えて多くの人びとの共感を得ることがあるように、悲しみを経験した人同士、強く共感できることが数多くあります。
このように「悲しみを経験した人同士の共感」についてとりあげ、戦争や分断の続く今こそ、悲しみや喪失感を抱えた者同士が「悲」をめぐって対話し、共感するような場が求められているのかもしれない、と江田さんは言及し、原稿を結んでいきます。
「悲しみを通さないとみえてこない世界がある」
心の中に大切なことを残して下さる一言でした。
引用部、『「お寺の掲示板」の深〜いお言葉』(江田智昭/ダイヤモンドオンライン 2024年1月8日更新)より
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