草加光明寺の掲示板に毎月掲出している言葉をご紹介いたします。取り上げる言葉とその解説は、『お寺の掲示板』(江田智昭著・新潮社)等を参考にさせていただいております。
「負けたことがあるというのが いつか大きな財産になる」
『スラムダンク』は井上雄彦氏によるバスケットボールを題材とした大人気漫画で、昨年上映された映画も好評を博しました。さて、この言葉は常勝を誇ったチームが逆転負けした際に監督が選手達にかけた言葉です。
『お寺の掲示板入門』にて江田さんは、どんなチームやアスリートも常に勝ち続けることができず、必ず負けるときがやってくることを示し、そこに私たちの人生との共通点を見ていきます。
私達は人生の中で「自分の思い通りになる=勝ち」、「自分の思い通りにならない=負け」とついつい単純に設定し、一喜一憂してしまいます。
また、江田さんは「コロナに負けるな」という言葉を例に、感染拡大による沈滞した空気を吹き飛ばすという意義を認めつつ、その価値観に共鳴するほどに「コロナにかかる=負け」という決めつけの価値観が、自身が感染したときの精神的ダメージを大きくしてしまうと述べています。
江田さんはお釈迦様の説かれた「一切皆苦(人生は思い通りにならないこと)」と、根本的な「苦(思い通りにならないこと)」である「老・病・死」を例に出し、人生の中で「負け(思い通りにならないこと)は必然であること、「負け」という概念自体も人間が勝手に作り出した設定にすぎず、誰もが最終的に老・病・死に負けてしまう存在だと見ていきます。
いっぽう、ハードル選手として活躍した為末大氏の著書を引用し、「負けと幸福感は別である」という言葉を見つけ出します。
僕の競技人生はまさに「負けで終わった」けれど、幸せな人生だったと胸を張って言える。そう、負けと幸福感は別である。(『走りながら考える』為末大著・ダイヤモンド社)
そして江田さんは仏教が教えてくれることとして、まさにこの「負けと幸福感は別であること」を示します。
負けの中から多くの気づきを得ることができれば、負けが単なる負けではなくなります。
このように単なる負けで終わらなければ、自分自身を不幸だと決めつけることもなく、負けた経験がそれ以後の人生のかけがえのない財産になっていくのです。
人生をふりかえり、大切な気づきに導く言葉に感じ入るところです。
引用部、『お寺の掲示板入門(江田智昭/本願寺出版社)』P22~P23より
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